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2011年8月

2011年8月17日 (水)

大阪技術振興協会誌9月号「人は放射線に弱いのか(その2)」を投稿

8月号に引き続き,大阪技術振興協会誌9月号に「人は放射線に弱いのか(その2)」を投稿した。「放射線」の話というより,「エネルギーの正体」や「今後のエネルギー選択のモノサシ」について書きたかったのであるが,うまく表現されていないと感じる。(その3)の予定はないが,何等かの形で引き続き発信していきたい。知らないまま「大きな過ち」を犯すこと,それは「大罪」ではない・・・と言えようか。IntPE

前報〔人は放射線に弱いのか(その1)〕では,我々の環境がなぜ放射線に満ちているのかを,地球の成り立ちから述べた。ビッグバンや超新星爆発の膨大なエネルギーを「質量」という形で蓄積した「原始放射性物質」は,現在でも放射線や崩壊熱を出し続けている。「放射線という言葉は,おそらく最も誤解されている言葉の一つである。放射線は地球誕生の太古より存在している自然の一部であると科学者や技術者は認識しているが,多くの人々にとって放射線とは,近年の原子力時代がもたらした,20世紀の新しい力を象徴するものと思われていることが多い。」(アラン・E・ウォルター著,放射線と現代社会)

1.放射線を正しく理解するための第一歩とは             福島第一原子力発電所事故は,「放射線」の情報を一挙に氾濫させた。そもそも論から頭の整理が必要ではなかろうか。放射線とは,平たくいえば単に空間を移動するエネルギーである。放射線は高エネルギーの電磁波(光子)と粒子線に大別されるが,前者をエネルギー(周波数)の低いものから並べると,電波,マイクロ波,赤外線,可視光,紫外線そして電離放射線(X線,γ線,宇宙線)である。「放射線は見えないから怖い」とは言い訳に過ぎない。太陽光という放射線は生物にとって不可欠なものである。負の影響もある。前報では,人が紫外線のガンから身を守るためにメラニン色素の調節能力を獲得した歴史を述べた。最近,WHOが「携帯電話(電磁波)は2,000mSv/h以上の放射線や喫煙程度に脳腫瘍の発生確率を高める」と発表した。エネルギーの高低で人への影響度は異なるが,頭に接触させた電磁波源が脳腫瘍に影響するかもしれないことは,他の放射線(電磁波)の影響からも容易に類推できるはず。こんなことを見過ごさないだけの理解が必要である。とはいえ,大量の電気を必要とする施設を日本から電気代の安い(日本の1/3)韓国へ移し,日本では全量買い取りで投資リスクが低下することを見越して,「脱原子力」を喧伝して再生エネルギービジネスを開始した携帯電話会社の社長がいても,疑問にも思わない。むしろ,35道府県がこれに協力し,「太陽光コストは火力の3倍。国民負担増になる」と疑問を提示したのは1県のみ。これが,我が日本国の現実なのである。「電波は見えないから」と言っていられようか。

2.原子力エネルギーとは             放射線を正しく理解するには,発生源である「放射性物質」や「原子力」の基本的理解が欠かせない。前報で述べたように,宇宙のビッグバンや超新星爆発の膨大なエネルギーは,ウランまでの元素に「質量」の形で蓄えられた。「核分裂」や「核融合」は,平たくいえば蓄えた「質量」から膨大なエネルギーを取り出すことであり,化学反応でエネルギーを取り出す化石燃料とは,エネルギー密度の点で雲泥の差がある。その分,本質的に危険を伴うものなのである。それを人知の及ぶ範囲と判断するか否かが分かれ道である。人の幸せとは何か。本当のところは分からないが,それは文明や文化が滅亡しないことを前提としているように思う。火というエネルギーを発見した人は,他の動物に比べ優位な進歩を遂げたが,古代ギリシャなどの文明は森林の乱伐と,それによる洪水や伝染病などで滅亡したという。地下に埋蔵された化石燃料を利用できない時代には,木材や木炭の調達可否により文明が盛衰したが,森林乱伐を救ったのは,よりエネルギー密度の高い石炭の登場であった。ここで初めて人は,「過去の太陽エネルギーを蓄えた資源」に手をつけたが,これが「産業革命」への起爆剤となった。その後,放射能を発見し原子力発電を開始したのは,今から約100年前と40数年前でしかないが,この利用で,エネルギー密度や入力に対する出力エネルギーの比(エネルギー収支比:EPR)が飛躍的に高まった。1970年代のオイルショック狂乱の再現を食い止めたのは,原子力発電ではなかったろうか。まさに,エネルギーは文化/GDPであった。

3.エネルギー選択のモノサシを考える            噛み合わない議論を整列する「エネルギー選択のモノサシ」は何であるべきか。モノサシを3点〔(1)~(3)〕,留意点を2点〔(4),(5)〕提案したい。 (1)経済性と実現工程を第一関門とする・・①EPRとエネルギー密度が高い,②稼働率が高い,③費用低減(負債回収)年数が短い,④リードタイムを考慮した長期戦略がある(原子力) (2)将来性(波及効果)の高い技術である・・戦略のリードタイムは長いので,将来の有望技術の開発ロードマップへの波及効果を考慮する必要がある。原子力の場合は,核融合と高速炉への波及であろう。 (3)安全性は便益との均衡で判断する・・携帯電話の使用(便益)はガン発生率(安全性)を,喫煙は健康(ガン発生率)を考慮して判断するように,他も基本的に同様であろう。 (4)地球温暖化対策は次善の条件とする・・過去の太陽エネルギーを蓄えた資源(化石燃料)は将来の世代に残すべきである。が,技術的に未決着の説(CO2主犯説は疑問)に基づく「政治的判断」は最優先条件にする必要がなかろう。 (5)海外事例は国情の違いを考慮して参考とする・・資源の有無,周辺国との協調の可否などの違いを無視した「見境のない適用」には慎重であるべき。例えば,今般の政策転換後のドイツで輸入電力量が増加した。その理由は「外国の安い電力が流れ込んだせいであり,発電能力が不足しているからではない」(独政府)。EUは2015年までに域内の電力市場を単一化し結節点を増やす計画という(日経ビジネス)が,その時,周辺国からの安い原子力発電の電力の流入を禁止することが,独政府にできようか。停電率の低さのメリットも失われ,企業は周辺国に移転して同じ電力を安く買えば良いはず。背景や根拠数値をよく確認し,良い所どりの論にも注意する必要があろう。

4.さいごに         報道や政治は大衆迎合気味であり,根拠数値を示さない議論も多い中,熟慮のないまま,迫られた末に短絡した意思決定をしてしまう危険性が高まっている。焦る気持ちから急ぎ「選択のモノサシ」などを述べたが,「エネルギー選択」のベストミックスとは何であろうか。迷いの日々であるが,決断を迫られる日は近い。以上

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